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「地域に自分の居場所がある」フローレンスの「保育園こども食堂」

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#子育て

仙台と東京で保育事業などを運営する認定NPO法人フローレンス(以下、フローレンス)が実践と政策提言を続けてきた取り組みである「保育園こども食堂」。
2023年9月7日、「保育園で、子ども食堂など地域に資する活動を行っても良い」という通知が、こども家庭庁などから全国の自治体などに出されました。

「保育園での子ども食堂、今までできなかったの?」と訝しく思う方もいるかもしれません。
実は、これまで保育園は保育以外のことは原則として行ってはいけないと考えられてきました。

例えば公立の保育園には「目的外使用の禁止」を管理規則で定めている自治体が多かったんです。

しかし、保育園には子どもが安全に過ごせる環境があり、子育ての専門家である保育士がいて、つくりたての食事が提供できる給食室を備えています。自然なかたちで親子に伴走し、親子と地域住民をつなぐ場になることができると考え、フローレンスでは運営する保育園でいち早く実践を重ねるとともに、保育園での子ども食堂の実施や、さらには地域の子育て支援施設としての保育園の多機能化を、国に提言してきました。

フローレンスの「保育園こども食堂」

フローレンスが保育園で子ども食堂を始めたのは2019年。
仙台市で運営している「おうち保育園かしわぎ」で「保育園こども食堂」をオープンしました。

当時、仙台市内では初の試みでした。

在園児や、かつてのご利用家庭だけでなく、広く地域にお声をかけたところ、満員御礼となる約30人のご家族、地域の皆さんが訪れ、あたたかいごはんを囲んで団らんの時間を過ごしました。

2020年には仙台市の認可保育園の「おうち保育園こうとう台」でスタート、2022年からは認可保育園「おうち保育園木町どおり」のほか、東京で運営している保育園でも順次、実施しています。
新型コロナの影響で、イートインではなくテイクアウトやご家庭にお届けする方法に切り替えた時期もあったほか、実施頻度や対象となるご家庭は園によって異なりますが、利用者からは嬉しい反響をいただいています。

【利用者アンケートより】
保育施設だということもあり、 食べておしまいじゃないところがありがたいです。 食べ終われば子ども同士が遊べる空間がある。だからこそ子どもが一生懸命食べますよ。 本当に感謝しております」
「みんなで同じ食事を食べることができ、家で2人で食事するよりも気持ちが軽くなった
「親子食堂(保育園こども食堂)で同じ子どもを持つもの同士関われるのが、本当にありがたいです。地域に自分の居場所があるっていう安心感という感じでしょうか」

保育園の特性を活かし、地域住民が子どもたちを見守り、子育てをサポートし合う。保育園での子ども食堂がそのきっかけになりうると考え、取り組みを広げてきました。

しかしこれまで、スムーズに事が運んだケースばかりではありませんでした。

冒頭に説明した、「保育園は保育以外のことは原則として行ってはいけない」という考え方が根強かったからです。

フローレンスが運営する認可保育園で初めて子ども食堂を実施する際も、自治体との調整が必要でした。
認可園の運営は、自治体から施設の設備や面積などの基準などについて細かく指定を受けており、子ども食堂の実施にあたっても、行政の指示を仰ぎながら何度も調整を繰り返し、一つ一つ課題をクリアすることで実現にこぎつけました。

保育園を子ども食堂などに使うことを国が禁じているわけではありませんが、自治体によっては実施を認めてくれなかったり、「保育園で使う調味料と、子ども食堂で使う調味料は、分けて管理するように」といった非効率的な運用を指示されることもあり、なかなか進まないのが実情でした。
そこでフローレンスは、「保育園を活用した子ども食堂などがスムーズにできるよう、国が考え方を示してほしい」と提言を続けてきたのです。

「保育所は地域の拠点」国の通知のポイント

そして今回、全国の自治体などに出された通知。
「保育所等において地域づくりに資する取組を行う意義」として、次のように書かれています。

○ 地域において保育所等は、現に利用しているこどもや保護者だけではなく、かつて保育所等を利用していたこどもや地域住民、保育所等において勤務していた職員その他保育所等と連携して活動する地域の主体とも関わり合う存在である。
○ そうした場において地域づくりに資する取組を行うことは、こども・子育て支援や生活困窮世帯に対する支援のみならず、高齢者、障害者その他の地域住民の交流拠点に発展することが期待されており、子育て世帯に限らない地域住民の居場所づくり、地域の賑わいの創出等の意味においても意義のあることであると考えられる。
○ 特に人口減少地域においてこどもや子育て世帯その他の若い世代が集う場は貴重かつ重要なものであり、保育所等がその拠点となることは、保育所等の多機能化の一つの例である。

通知のポイントは2点あると考えています。
ひとつは、「施設の業務時間外・休日利用OK」と明記されたことです。

施設等の業務時間外や休日を利用し、本来の事業に支障を及ぼさない範囲で一時的に子ども食堂等の実施のために保育所等の設備を使用する場合のほか、 保育の提供時間内であっても、令和3年通知1(2)の整理に基づき、定員に空きがある場合において、保育所等の運営に支障を及ぼさない範囲で子ども食堂等の実施のために保育所等の設備を一時的に使用する場合には、一時使用に該当するものであり、財産処分の手続は不要となるため、令和3年通知1(4)で示した取扱いも踏まえ適切な手続を行うこと。

もうひとつは、「消耗品費、水道光熱費を園利用分と分けて経理処理しなくてOK」と明記されたことです。

保育所等において子ども食堂等を実施する際の消耗品費、水道光熱費等の経費について、子ども食堂等の取組の規模が本来の事業に支障を及ぼさない範囲である場合にあっては、保育所等の運営と子ども食堂等の実施とを区分して経理することを要しない。

この通知を受け、保育園での子ども食堂の実施に理解が深まり、実践する園が広がって、より多くの親子がお腹いっぱい食べて笑顔になる、そんな未来が見えてきました。

保育園を地域コミュニティのハブに

さらにフローレンスは、子ども食堂以外にも保育園を多機能化し、地域にひらいた存在になることを目指しています。
ことしの夏休み、東京と仙台市内で運営する「おうち保育園」で小中高生を受け入れ、職場体験を行う「フローレンスのこどもインターン」を初めて実施しました。

社会勉強やキャリアについて考える機会になればと、半日〜1日、保育園で園児たちと遊んだり、寝かしつけをしたり、お掃除をしたり・・・リアルな保育士のお仕事を体験してもらいました。
夏休み期間中に約30人が参加し、「やりがいを感じられる仕事は、大変さに勝るぐらい楽しいことを知りました。将来は子どもが自由に好きなことが選択できて笑顔で過ごせる社会をつくりたい」といった感想が寄せられました。

保育園を、地域住民がさまざまな目的で利用できる「地域の総合児童福祉施設」へと多機能化し、子育て世帯と地域住民をつなぐ「地域のコミュニティのハブ」にしていきたい。フローレンスはこれからも実践と政策提言を重ねます。

こうした提言活動は、皆さんからのご寄付に支えられています。
ぜひ、今後ともフローレンスの活動を応援いただきますよう、よろしくお願いいたします。

WRITER この記事を書いた人

こども達のために、日本を変える。フローレンスは未来を担う子どもたちを社会で育むために、事業開発、政策提言、文化創造の3つの軸で、社会課題解決と価値創造をおこなう国内最大規模のNPOです。

日本初の訪問型・共済型病児保育事業団体として2004年に設立し、ひとり親支援と子どもの貧困防止、子どもの虐待や親子の孤立防止、障害児家庭支援など、日本の子ども・子育ての領域で総合的な活動をおこなっています。
待機児童問題解決のための「おうち保育園」モデルが、2015年度に「小規模認可保育所」として国策化されたほか、障害児に専門的に長時間保育を提供する日本初の「障害児保育園ヘレン」や、子どもの虐待問題解決のため「フローレンスのにんしん相談・赤ちゃん縁組」、子どもの貧困を解決する「こども宅食」などの取り組みを全国で加速しています。
たくさんの仲間と共に、社会に「新しいあたりまえ」をつくるNPO法人です。

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